Q:さて、しばらく休憩したあと、また、うかがってもいいですか?
A:はい、はい。
Q:綿花がはじけたところでしたね。
その時、クラスの7人の机は、やっぱり、
まだ一番後ろに一列でしたか?
A:いや、いや、もうその時は、窓際に一列に並んでた。
Q:ああ、今度は窓際、・・それは、子どもたちがそうしたんですか?
A:そうではなくて、担任の先生が、いろいろと言ってくれていて
粘り強い人だったから、サポートしてくれていました。
ようやく、机は窓際に一列になっていたんだと思います。
Q:それで、綿花を持って行った時?どうなりました?
A:一番興味を何にでも持ってくれる子が、一人、
前に出てきて、触ってくれた。
Q:うわ〜〜!!やったあと思ったでしょう?
全員、わっと寄ってきてくれたんでしょう?
A:いやあ、そんな簡単にいきませんよ。
一人だけだった。
でも、「はじけとる」とか「綿(わた)ばい!」とか・・・
Q:そう、じゃあ、がっかりしたでしょう?
A:いやあ、そうでもなく、教室に、綿花を置き去りにしたから、
きっと、あとで、みんなこっそり見ていただろうな、と思います。
Q:N君は、どうしたんですか? 気になって仕方がないのですが、・・・・
A:N君はね、残念ながら、もう、来なくなった。
学校に、通わなくなり、やめてしまった。
Q:残念ですね。N君とは、その後も一度も会っていない?
A:そうですね。彼は、実業高校に入ったのを後悔したんでしょう。
心が痛む相手ですね、今でも。
でも、授業とは何かを教えてくれた、そういう子どもだったと思います。
Q:私も、若気の至りで、ひどいことをしたと思う相手は、
やっぱりいます。教師って、直接子どもに関わるから、
子どもたちを一度も傷つけない・・・って絶対ありえない、
いつも、自戒しなくちゃとは、・・・・私自身も思います。
・・・・・・・とてもむずかしいですね。・・・・・・
・・・・・・そういうことを経て、授業を変えていくわけですね。
そのころ、私たちの会(旧社会科の授業を創る会)と、出会ったわけでしょう?
A:地元の研究会に出ていて、そこで、機関誌の『授業を創る』を見た。
その中に、久津見宣子さんの実践「鉄をつくる」があって
とってもダイナミックで、おもしろいなと思ったわけです。
この合宿研究会に出てみたら、もっとおもしろいことがあるだろうと、予感がした。
Q:合宿研究会に出てみて、どうでしたか?
A:それは、あのころは、とっても〜〜〜。
Q:何ですか?
A:お母さんたちがね(会に参加していたお母さんたちが、5~6人いて)
遠くからの参加を、とても喜んでくれ、
優しくしてもらえました。
Q:私も、学生で、お母さんたちに、トマトやら、お茶菓子やら
たくさんもらって、・・・・うれしかったです。
討論は手厳しかったけど、お母さんたちは、初めての参加者とか、学生に、
とっても優しくしてくれましたね。
A:それだけじゃなくて、会の事務局の大竹温子さんが、
ミニ織り機のキットの一部を「これが、なかなか作りにくいところ」とか、
「このテープを使うといいわよ」と言って
たくさん分けてくれた。
Q:大竹さんは、会の中では、織り物をたくさんやっていましたから、
師匠みたいなものでしたね。
A:だから、紡錘車を中村ミツ子さんから買ったと思うし、
綿花から糸を紡いだり、羊毛から糸を紡いだり、
ガーゼをほぐして、繊維を取り出したり・・・・
合宿研で体験して、とてもおもしろかった。
Q:それは、学校に帰って、すぐ見せたんですか?
A:いやあ、すぐにはね、使えません。
でも、綿花を見せたあと、「実物を、まず見せればいいな」
「しめた! うまく行きそうだぞ」・・・と
道が見えてきたわけ。
Q:何をはじめにやりましたか?
A:綿花がはじけて綿になったのだから、
この綿を紡いで、糸を作ろうと思った。
Q:糸紡ぎですね。?
A:でも、そんなすぐにはできないでしょう?
紡錘車を持って帰って、簡単なものを作ってみました。
だけど、簡単に、糸なんて、紡げない。
Q:そうですね。ブツブツってすぐ切れますね。
A:東京では「青梅綿」って言われたけど、
こちらでは、丹前綿と呼ばれている物を買ってきて
練習した。
Q:どのくらい練習しましたか?
A:だいたい一か月くらいかな? やってやるぞという感じです。
Q:子どもたちの前で、失敗したら、情けないですものね
A:やっぱり、あっと言わせたい。
絶対、紡錘車で糸を紡ぐのを見せてやろう、
コンチクショウ・・・っていう気持ちで、練習した。
Q:わかります。コンチクショウ・・・って。
とにかく糸が切れますね。いつまでたっても、うまく行かないなあと、
私も、絶望的になった時もありました。
コツがありますね。うまくなりましたか?
A:糸を紡ぐとき、糸を引き出したら、その糸の出口を一旦止めて、
そして、今度は撚りをかける・・・
引き出すのと撚りをかけるのを同時にやらない・・・
というコツがわかってきたら
何とか、形がつくようになった。
Q:綿花の次は、糸紡ぎですね。
さて、準備万端、授業は?
A:もうその時はうれしくって
「自慢してやるぞ」って思いながら・・・
Q:つまり、闘志を内に秘めながら・・・ですね。
A:準備は、一人ずつ、茶封筒を用意して、
その中に、ふとんワタ、紡錘車を一組にして
いっせいに配りました。
そして、まず、自分でやって見せた。
Q:そうしたら?
A:子どもたちは、「何が起こるのかな」という顔をしている。
これがおもしろい。今まで、やられっぱなしだから
・・・でも、一応冷静なふりをして・・・
綿から糸を紡ぐのををやって見せました。
いかにも、簡単にできるようにして見せた。
Q:先生、力、入ってましたね、計画のうちですか?
A:そんな、・・・授業のようすですけれど、
一番前の子は見てるけど、二番目の子は見ていない。
いっせいに真似するが、できない。
それで、左手で握りしめている綿が、
固くなってしまう。・・・
すると固くなってしまうと糸の端が取れないから、
予備の綿をもらいにくる。
うまく行かないから、何回も綿を取りにくる・・・・
Q:先生にコツを聞きましたか?
A:いやあ、なかなかで、しゃくにさわってきたようになってくるうち、
一人の男の子が、「できた!!」
そうすると、やる気が違ってくる。
そして、次は、できた糸が、長くなって、
両手を広げた以上の長さになって困ってくる。
そうしたら、ヒートンに引っ掛けて、紡錘車に巻き取ることを
教えました。
Q:ちょっとできるようになると、「はまり」ますよね。
A:意外と子どもたちは、できるようになります。
教室の中が無になって…つまりシーンとして
夢中になっている。
ようやく意思の疎通ができるようになったと感じた。
Q:一件落着ですか?
A:そうしたら、子どもたちは言うんです。
「できた! おもしろかったけど、・・・
何のためにするのか?」
そう聞かれたから、思わず、
「この次は布にするんだ」と言ってしまった。
Q:どんどん進みますね。
A:だから、ミニ織り機をみんなで作りました。
くぎだけで作り、二色づかい。
手作業は、子どもたちは好きで、
シーンとなります。
ミニ織り機の裏側まで、織ってしまって
夢中になった。
授業が、言葉と文字から解放された!!
Q:かっこいい〜〜!!
A:言葉と文字だけじゃ、子どもたちはついてこない。
ものづくりを、会との接触のあと、
取り組むようになりました。
Q:子どもたちのようすは?
A:机は、まん中に一列並んでます。
そして、懲りずに、この会の研究会、合宿研究会
教具製作・・・・何回も通うようになりました。
Q:一年に何回もだから、飛行機代だけで、すごいですね。
何万円どころじゃないですね。情熱がわかります。
A:ジェニー紡績機の模型も、糸車も、
高機も、作りました。
Q:あのころ、みんなで盛んに作った教具、模型は
私も教員生活数十年で、ずっと使い続けて、
宝物になってます。ありがたい模型、さまさまですね。
A:東京で作って、飛行機に乗せるのにも苦労しました。
壊れちゃうから、手荷物で載せる。
特に、高機や、ジェニー紡績機や、糸車や、蒸気工場模型・・・・、
キャビンアテンダントの人に、保管してもらうよう頼んだり・・・
持って帰ってきたら、そのうち、すぐに子どもたちに見せました。
Q:すごいですね。次々持ってくる教具に、子どもたちも驚いたでしょう?
A:顔つきが変わりました。生き生きとしてくるようになった。
Q:先生も楽しんでいたでしょうね。
先生も、子どもたちも、次はどうしよう、次は何かなと・・・
A:今度は、地元で手に入れた蚕の繭に取り組みました。
Q:ああ、ちょっと時間が来たみたいなので、次は次回にまた・・・
蚕の糸を取り出すのも、なかなか、ドラマがありそうですから・・・
A:ああ、そうですか?
みなさん、僕のような話、おもしろいのかな?
Q:おもしろいと思いますよ。ぜひ、次回もお願いします。
A:じゃあ、それまでに、また、よく思い出しておきましょう。・・・つづく
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