苦労した話を、インタビューで掲載します。
うまくいかなかった授業、立ちはだかった壁、
落ち込んだり、迷ったり、・・・・
ベテラン先生も、最初から子どもたちと、コミュニケーションが、
うまくいったわけではありません。
どの先生もそうだったように、いくつもの壁を、何とかして乗り越え、
あきらめずに、チャレンジして、先生の仕事を続けてきました。
その大変な時期のことを、インタビュー形式で、聞き書きしました。
きっとヒントがあると思います。
目次・・・・・第2回
・・・・・ 第3回
・・・・・ 第4回
・・・・・ 第5回
Question: 一番苦労したころの話を聞かせてください。
Anser:
うんそうですねえ、教員になって7年め頃かな、
それまでは、普通高校だったから何でも言うことを聞いてくれて、
天国だった。プリントを作って、それを解説をして、黒板に板書して・・・
そういう授業をしていて、それが普通だと思っていた。
そのあと実業高校に転任したんですね。
Q:それで? 実業高校の生徒たちと?
A:1年目は楽だったんです。普通高校のやり方で、うまくいっていた。
ところが、二年目に問題発生したんです。
Q:どんなふうになったんですか?
A:2年目になって、最初のうちはよかったけれども、5月ぐらいになってね。
ひとりだけ、N君がやる気を無くしていった。
Q:N君が何でやる気をなくしたってわかったんですか?
A:机の上に突っ伏して、寝たふりをしてるんだな。
Q:それで? 突っ伏している子がいたら、起こそうとしますよね。
A:でもね、N君は、それまで、とてもやる気があるように見えて、
授業にも協力していて、とてもいい子だなあと
そう思っていたから、ショックだった。
Q:その時、先生はどうしたんですか?
A:ツカツカッて行って、うつぶせのN君を起こそうとしたんです。
ところが、彼は抵抗する。
頭に血が上って、もっと抵抗するN君に、力をふるいそうになったけれど、
クラスには、彼の味方もいるような雰囲気で、・・・・・
だから仕方がないかとその時は思ったんですね。
Q:その時クラスは?他の子たちは?
A:他の子たちも「かまわず、関係なく授業を進めてよ」って、言い出した。
それで、黒板のところに戻って、授業をもと通り進めるしかなかった。
なんとかその日は収まりました。
Q:次の時間は憂うつだったでしょうね。
A:でも、憂鬱なんだけども、仕事だから、また次の時間も行きます。
また、次の時間も机にしがみつくようにしている。
ちょうど、タコが机にしがみつくような感じ、軟体動物がしっかりしがみつく・・・・
Q:ハハハハ!!! タコなら吸盤があるからダメですね。
その日は、はがそうとしなかったんですか?
A:ダメダメ、やっぱりはがしに行こうとした。
Q:そうしたら?
A:彼は僕の行動を読んでいたわけ!
体に触れられるのは、すごく高校生嫌うよね・・・・だから
やおら、立ち上がって、
窓のカーテンを力にまかせて、ピッと引っ張り下ろし、
床にパッと敷いて・・・・
Q:床に敷くって言いましたけど、そんなに広いんですか?
A:実業高校で、その科は7人しかいなかったんですよ。
そこの教室は・・・だから、空間がたくさんあって、
そこに、カーテンを敷いたんです。
Q:敷いた?そして?
A:今度は、そこにゴロンと横になった。
Q:え〜!! 寝ちゃったわけですね。
A:大の字になって上向いて寝てる。
Q:そうすると?
A:どうしたって、机に座らせられない。。
寝たふりだろうと思うけれども平らになって寝ているからどうしようもない。
Q:そして?
A:そうすると、おころうと思ったんだけれども・・・・・
子どもたちが、また、「かまうな」と言う。
そう言われてしまうと、やっぱり黒板に戻って授業するしかない。
Q:その間に、先生は職員室で、愚痴も、誰にも言わなかった?
A:担任の先生に話してみたよ。ひょうひょうとした人でね、
「あの子は、そういうところがありますね。
一人っ子で、わがままのところがあるんだから、
難しいですね・・・・・」と。
Q:それだけ言われたんでは、何の解決にもなりませんね。
先生は、困ってしまいますよね?
何回も寝ることが続いたんですか?私だったら、頭に血が上るなあ〜〜
A:カーテンに寝たのはその日だけだったと思う。
だって、教室のカーテンを取ってしまったのだから、
担任の先生に怒られたでしょう?
Q:じゃあ、解決したんですか?
A:いや、いや、3時間目があるんですよ。
Q:何があったんですか、まだあるんですか?
A:三回目どうしたと思います?
Q:今度は授業ボイコット?
A:そうじゃないんです。授業には、ちゃんといるんだけれども、
教室に入ってみて・・・・・どうしたと思います?
Q:みんなカーテン?
A:まさか!!
広い教室に、7つしかない机を、一番後ろ、6mうしろに一列に、
並べてあったんです。教卓は、一番前。
ぼくとの距離は6m。
Q:えっ、状況がよくわからないんだけれど・・・
A:一番前、黒板の前に、僕は立って授業しますよね。
Q:はい、そうして高校生たちは?
A:教室の一番後ろの方に、一列に机を並べている・・・。
Q:前に机を持って来なさいって言わなかったんですか?
A:教室に入ったらビックリしてしまって、唖然!
やられたと思った。だから、もう、そんなことは言えませんよ。そのままです。
Q:そうしたら、その日はどうしたんですか?
A:四面楚歌じゃないですか。・・・・・・
N君の勝ちですよ。みんな6人を従えてしまったんだから。
ぼくはさびしく黒板だけを相手に授業するしかなかったんです。
ほんとに、さびしかったですよ。
Q:あっぱれ!!N君ですね
A:そんなこと言って!!
それが、えんえんと続くんですよ。毎日。
ぼくの気持ちも考えてくださいよ。
Q:それが、どのくらい続いたんですか?
A:一か月ぐらい続いたかな?
Q:一か月も?え〜〜〜、毎回、毎回、机は後ろ?
A:そういうこと、毎回。一週間に2回ぐらいそのクラスの授業があって、
それが一か月くらい。
Q:じゃあ、多くて8回も、そんな授業?いやになりますよね。
A:そりゃあ、そうですよ。
Q:他の子たちは、一応一番後ろでも、授業を受けているわけですか?
A:一番後ろにいるけど、授業は受けている。
一応ね。七人の小人じゃないけど・・・・七人。
Q:冗談が出ますね。先生!
でも、教師の方もやる気が無くなりますよね。高校生に背かれたら・・・
やっぱり大ショックだろうなあ。
A:そのクラスの前を通るのは嫌になる
でも、他の3クラスの時は平和だから、忘れてるけど、
やっぱり、つらい。
無視すればいいように思うかもしれないけど、
授業拒否と同じだから、地獄の一か月だったな。
やっぱり、つらいよね。
Q:感情的にはどうだったんですか?
A:怒りたい部分はあるけど、怒っても何の解決にもならないのは目に見えてる。
Q:そうしたら、何か解決策を考えるしかないってことですか?
A:そうそう、その間に、僕も情報集めるわけですよ。
やられてるばっかりじゃ悔しい。
Q:どんな情報ですか?
A:定員40名のところ7名しか入らなかった。
入学の時、その年は誰でも入れると言われていたらしい。
だから、自尊心をみんな、傷つけられていたということも分かってきた。
Q:自尊心というのは?
A:他の科は、特殊な技術を持っていたりして、定員以上集まった。
まわりから、その子たちがバカにされていた。
それで、自尊心を大きく傷つけられていたから、彼らは、やる気をなくしていたようだった。
そういうことがうすうすわかってきた。
Q:その情報を得たことで、どうなったんですか?
A:怒るだけじゃ仕方がない・・・だけじゃなくて、
これは、大人にも責任があるんじゃないかと思うようになった。
Q:ずいぶん、考え方が転換しましたね
A:子どもたちは、大人の想像以上に、自尊心が傷つきやすいんですよ。
Q:自尊心というのは大事ですか?
A:やっぱり、人間は、バカにされていながら、やる気を起こすのは無理でしょ?
Q:それはそうですね。私だってバカにされたらいやだ。
A:特に、N 君は傷つきやすかったと思います。特に繊細だった。
Q:でも、先生の方が、落ち込んでるだけじゃ、教師辞めるしかないですね。
A:だから私の方だって、リベンジを考えるわけです。
Q:どんな戦略を立てましたか?まず一歩は?
A:中の3人ぐらいは前に来たいと思っているのに
来られないだろうと思っていた。
そして、まず、プリントの穴埋めをやめた。
Q:プリントをやめるだけでは、どうなんですか?
A:ちょうど、その年に、春から、綿花を栽培していたんです。
Q:ちょっとヒントが浮かんだんですね。
A:うんうん、綿花がコットンボールになっていた。その実物を持って行った。
Q:ちょっと待ってください。コットンボールって秋ですよね。
っていうことは、秋までN君の抵抗は続いたってことですか?
A:え〜〜と、秋じゃないね、夏休み明けだと思う。9月かな。
Q:ということは、1か月じゃないですね。何カ月も?
A:そうかもしれないな。もう忘れてるけど、1学期のあいだは続いたと思う。
Q:それはすごいな。実は3カ月近くも一番みんなの机うしろですか?
衝撃的事実だなあ・・・・ちょっとドッキリ!!笑っていたけど笑えない。
A:う〜〜ん、そうだったかも。
それでね、綿花は、夏に花が咲いて、・・・・
そういうようすを、授業中に、鉢を持って行って見せることはしていたんです。
Q:綿花って、どのぐらい植えていたんですか?
A:初めてだから、一鉢ですよ。それを、図書室の陽の当たるところに置いておいて、
水をやって育てていた。
Q:花はきれいですよね。ちょっと脱線しますけど。
A:そうそう、最初はほとんど白いような花びらが、開くと黄色くなって
夕方にはピンクになり、しぼむと花の先が赤くなっている。
Q:七変化みたいですよね。私とても好きなんです。
A:僕も、それがおもしろくて、そのたびに、教室に持って行っていたと思います。
Q:花が終わると、実ができて、やがてはじける・・・
A:そうそう、そのはじけてきた時にも、教室に持って行ったんです。
Q:それで、どうしたんですか?
A:綿花がはじけて、真っ白い綿が、飛び出しているわけです。
それを教室に持って行ったら、・・・・・・フフフ・・・
N君は寄ってこないんだけれども、他の子たちが前に来た。
Q:そうか、綿花だったんですか?
A:6mうしろじゃ見えないんですよ、綿花のはじけたところが・・・・
Q:やりましたね、先生。
A:そう、みんなが前に寄ってきたんですよ・・・・
綿の実がはじけて綿が顔を出す
Q:N君は、どうしていたんですか?
A:N君は、学校に来たり、こなかったり・・・だから、ずっと僕とだけ
緊張関係が続いていたわけではなかったんですけどもね。
Q:それで?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・続く
第2回へ